あなたの愛、その全てが愛おしい
「愛してるよ」
行為の後に
彼は必ず耳元で囁いた。
その言葉
聞くのも言うのも
恥ずかしくなかった。
ぼくも心から愛していたから。
「愛してる」
照れもなく、彼の美しい瞳を見ながら
真剣にぼくも言った。
行為中は
一言も言葉は発さない。
ただ夢中で
何も考えられなくなるまで
お互いを求めあった。
大切な大切な、眩く美しい瞬間。
行為だけじゃない。
改札口で待ち合わせして
待っている時。
食事しながらの
たわいも無い会話の時。
どちらかの家に一緒に帰るのに
ゆっくりと歩いている時。
周りに人がいなければ
自然と手を繋いでいたあの時。
一緒にいる時間。
彼の事を考えている時間。
彼からの着信音。
全てが愛おしい。
愛に満ち溢れた時間だった。
いつも「今この瞬間」を
大切にしていた。
思い返せば、先の話し、未来の話しを
した事はなかったかもしれない。
「おれ、結婚するよ。
いや、しなきゃいけなくなった」
この言葉
意味を理解するのに
ぼくには長い時間が必要だった。
